生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)とは

体外受精イメージ
  1. 1)体外受精(IVF)
  2. 2)顕微授精法(ICSI)
  3. 3)胚移植(ET)
  4. 4)ヒト卵子・胚の凍結保存
  5. 5)凍結胚移植

等の技術に対する総称です。

ARTは大きく3つのステップに分けることができます。

  1. ①女性の体内で卵巣の中にある卵子を育て、外に取り出す過程(採卵)。
  2. ②同じ日に精子も採取していただき、採卵で採れた卵子と受精させ、育てる過程(培養)。
  3. ③育てた胚(精子と卵子が受精した後の卵)を子宮の中に戻す過程(移植)。

このとき精子が泳いで卵子と出会う方法が体外受精(IVF)、精子を1個直接卵子に針で刺し授精させる顕微授精(ICSI)といいます。と。

生殖補助医療(ART)がタイミング法や人工授精といった一般不妊治療と異なる大きな点は、卵子と精子が出会い受精する場が女性の体内ではなく、体外になるという点です。体外で確実に卵子と精子を出会わせることで妊娠率を向上することができます。

2020年に日本で出生した児のうち、体外受精(を含む生殖補助医療)による出生は約14人に1人となっています。全世界で800万人を超えたともいわれ、世界初の成功例で生まれた女性を含めて初期の体外受精による出生児が多数成人となり、体外受精を必要とせず次世代の児を得ていることが報告されています。

保険適用について

2022年4月より不妊治療に対して保険適用されるようになりました。特に人工授精や、これまで自費で高額であったARTに関して、患者様の自己負担額は大きく軽減されました。
保険適用化にともない、1子を得るまでに通算6回まで(40歳以上43歳未満であれば3回まで)胚移植が可能となりました。同時に、治療計画書の作成・同意書や書類などのかつ厳密な管理と取得、厳格にガイドラインに沿った診療が求められるようになりました。

体外受精とは

体外受精(IVF)は、採卵手術により排卵直前に体内から取り出した卵子を体外で精子と受精させる治療です。体外に取り出すことで卵子と精子をより確実に受精させるチャンスを得られます。
培養液の中に採取した卵子と精子を混ぜ、精子が泳いで卵子に向かい受精が起きます。
体外で受精が起きますが、人為的に卵子と精子を選んで受精させるのではなく、卵子と精子がお互いに選びあい受精するという点はより自然に近い形です。

体外受精を検討された方が良いとされる方

原則として体外受精は、これ以外の医療行為によっては妊娠成立の見込みがないと判断される場合に行われる治療です。具体的には、以下の場合が適応になります。

  1. ①一般不妊治療である、タイミング法、排卵誘発法、人工授精(AIH)などを十分(5~6回)行ったが、妊娠できなかった場合
  2. ②自然妊娠や人工授精で有効と言えない程度に精子濃度が低い、精子運動性が不良など、男性因子がある場合。
  3. ③両側卵管切除後の場合や、子宮卵管造影検査/腹腔鏡検査により両側卵管の閉塞や癒着による機能障害が確認され、その回復が不可能と判断した場合。
  4. ④抗精子抗体が陽性で、自然妊娠や人工授精では妊娠できない場合。
  • 妊娠を希望する女性の年齢が35歳以上
  • 人工授精の回数が5回以上になっている
  • 男性不妊がみられる(乏精子症、精子無力症、奇形精子症の造精機能障害、性機能障害 等)
  • 卵管が狭窄あるいは閉塞している(卵管性不妊)
    (原因:クラミジア感染症、淋菌感染症、子宮内膜症、卵管水腫、ピックアップ障害 等)
  • AMH(抗ミュラー管ホルモン)の数値が低い
  • など

成績

日本産科婦人科学会の報告によると、2020年に日本では体外受精を用いた治療が82,883周期分行われています。そのうち、新鮮胚移植1回あたりの妊娠率は23.1%、生産率は16.7%となります。凍結胚移植が214,990周期分行われており、移植1回あたりの妊娠率は36%、移植1回あたりの生産率は25.5%と言われています。

体外受精の主な流れ

ARTの3つの過程(採卵、培養、移植)を行います。各過程でのスケジュールは以下のようになります。

採卵

採卵にむけて女性の体内で卵胞を育てます。
育て方にはいくつか種類があり、自然周期、低刺激周期、高刺激周期にわかれています。
どの刺激法を行うかは女性の年齢やAMHの数値、家族計画などを考慮し個人個人にあったテーラーメイド医療を行わせていただきます。

  1. ①月経1~3日目に受診していただき、超音波検査、採血(女性ホルモン)を行います。
    超音波検査で胞状卵胞(今周期に育つ卵胞のもと)の数、前周期の残りがないか、子宮内膜の厚さなどを確認します。問題なければ刺激法を決定します。
  2. ②刺激法により受診日は異なりますが、月経8~9日目に受診いただくことが多いです。
    超音波検査や必要あれば採血(女性ホルモン)を行い何個の卵胞が育ってきているのか、卵子が成熟しているかどうかを確認します。
    成熟していると判断されれば最終成熟を促す処置を行います。まだ育てたほうがよいのであれば刺激継続します。
    この過程が2~3日に1度の通院になる場合や連日通院が必要となる場合があります。
  3. ③最終成熟を促す処置を行うと36~42時間後に排卵してしまいます。排卵直前の36~38時間後の時点で卵子を体外に採取します。同日に精子を採取していただき、媒精を行います。

採卵までに合計3~5回の通院が必要となる場合があります。

採卵術(超音波ガイド下経腟的卵胞穿刺術)

排卵誘発剤によって大きくなった状態の左右の卵巣はほとんどの場合、腟の奥の壁(腟円蓋)にすぐ接して存在しており、開腹手術や腹腔鏡下手術をしなくても、超音波断層法(エコー)でモニターしながら腟内から採卵用の針を進めることにより、卵胞を穿刺、卵胞内容液を吸引、卵子を回収することができます。ただし、卵巣や子宮の腫瘍・癒着などにより、穿刺が困難な場合もあります。

採卵手術は穿刺する卵胞の数により、5~20分程度で終了します。術後は一時的に回復室でお休みいただきます。採卵の際は、痛み止めの座薬を使用したり、腟壁に局所麻酔薬を注射したりすることで穿刺時の痛みを緩和するようにしております。この場合は、意識ははっきりしている状態です。
卵胞が多数である場合などは、採卵時の痛みを軽減するように点滴で静脈麻酔を行い、うとうと眠っているような状態で採卵します。
尚、採卵後はどなたかにエスコートいただいての帰宅をおすすめしております。

精液の採取

男性パートナーの精子の採取をしていただきます。
ネームシールを張り付けた容器に精液を全量採取してお持ちいただきます。ご自宅などからお持ちいただく場合は、精液の入った容器をタオルなどに包んで外気にあたらないようにし、人肌程度に保温してご持参ください。

受精の方法

一定濃度に調整した精子と卵子をシャーレ(培養皿)の中で混和し、受精させます。順調に分割が進めば、受精後48時間から72時間で4~8分割胚となり、胚移植が可能となります。
状態によっては、さらに培養を進め、受精後5日目(あるいは、6、7日目)で着床直前の胚盤胞に到達させる場合もあります。

ホルモン補充

新鮮胚移植を予定する場合は、採卵当日より着床しやすくするために黄体ホルモン製剤の内服・注射・または腟剤を使用していただきます。エストロゲン製剤の内服・貼付剤を使用いただくこともあります。

治療を始めるにあたって、まず卵子をできるだけ採取しやすくするために排卵誘発剤(内服薬、点鼻薬、注射)を使用していきます。そのため、卵巣が腫れる、腹水が溜まるなどする、卵巣過剰刺激症候群が起きやすくなることもあるので要注意です。ちなみに採卵前に排卵しないように排卵を抑制する薬を使用することもあります。

その後は、卵子をさらに成熟させるべく、hCGによる注射を行います。同注射後、36時間が経過したら採卵し、日を同じくして男性は精子を採取します。なお取れる卵子の数が多い場合は、静脈麻酔をしての採卵となります。

採取した精液は、洗浄・濃縮し、元気が良いとされる精子のみを選別し、シャーレの上のある卵子に精子をかける形にします。この状態で受精を待ちます。受精卵になれば、4分割、8分割と細胞は分割していき、受精から5日程度経過すると、着床直前の状態とされる胚盤胞に成長するようになります。受精卵が胚盤胞の状態になると子宮に戻します(胚移植)。この移植によって受精卵が着床すれば妊娠となります。

胚移植から2週間ほど経過した後、尿や血液を採取し、着床の有無を判定します。その結果、hCG(ホルモン)の数値が上昇していることが確認できれば、着床したと判断されます。さらに1週間後に超音波検査をし、胎嚢が確認されると妊娠したと判定されるようになります。