社会性卵子凍結(未受精卵子凍結)
卵子凍結(未受精卵子凍結)とは
「将来の妊娠に備え、あらかじめ良質な卵子を凍結保存しておくこと」を言います。
日本は晩婚化が顕著に進んできております。晩婚化が進むことで妊娠年齢も上昇しています。
加齢に伴い、卵子は数も質も低下していき染色体異常率が上昇していくことで、妊娠する力は低下していきます。
男性の精子は毎日新しく作られていますが、女性の卵子は、ご本人のお母さんのお腹の中にいる時に約700万個作られ、そこからは増えることはありません。出生時には100~200万個まで卵子は減っており、月経が始まる思春期頃には、20~30万個まで減少します。20代では10万個、30代で2~3万個と減少していきます。
思春期以後の毎月1回おこる排卵の際に約1000個が消費されていると言われています。
一生で排卵する卵子の数は400個~500個と推定されており、排卵の回数がいわゆる妊娠のチャンスの回数ともいえます。
卵子凍結は、もともと医学的な理由で卵巣機能が低下する方に対し、卵子を凍結保存する目的で行われてきました(医学的卵子凍結)。がん治療によって卵巣にダメージが加わると卵子の数は一気に減り、治療終了後にはいわゆる閉経と同じ状況になってしまうと妊娠のチャンスがなくなります。卵子凍結をしていれば凍結した卵子を使うことで妊娠のチャンスを残すことができるのです。
近年、健康な女性が将来の妊娠・出産の可能性を保ちながら、パートナーの不在やキャリアアップなど、ライフプランを実現するために今すぐは妊娠できない状況に対し、卵子を凍結保存する需要が高まってきています(社会性卵子凍結)。
また現在女性特有の婦人科疾患である子宮内膜症を患う方は10人に1人と言われており、内膜症の治療(手術)を行う事で卵子の数が減ってしまうことが懸念されます。いわゆる社会性とはやや異なりますが、卵子凍結を行う事で内膜症になり治療を行う必要がでたとしても妊娠するチャンスを残すことが可能です。
当院では日本生殖医学会の「未受精卵子 あるいは卵巣組織の凍結・保存のガイドライン」に基づき、原則として40歳未満の女性を対象とし社会的適応の未受精卵子凍結を実施しております。40歳以上で卵子凍結を希望される場合、高齢出産のリスクを考慮しご相談の上検討させていただきます。凍結卵子の使用は生殖医学会ガイドラインに則り、生殖可能年齢(46歳未満)までとさせていただいております。
卵子凍結は、できるだけ若いうちに行うのがよいとされ、35歳を過ぎる前までが望ましいとされています。この年齢を過ぎると卵子の数は減少し、質も低下しやすくなるとされています。
子どもを1人得るには、
35歳未満の方では、20個程度
36~39歳の方でしたら、30~50個程度の未受精卵子が必要と報告されています。
うまく卵子数を集められたとしても、これは必ずしも妊娠・出産を保証するものではありません。
ちなみに東京都では、2023年度の予算案で、社会的卵子凍結(健康な女性による卵子凍結)にかかる費用の一部助成(30万円程度)を限定(200人を想定)で行うとし、関連経費を含め1億円を計上しています。
卵子凍結の流れ
卵子を獲得し凍結するために、体外受精と同様にまず採卵する必要があります。排卵誘発剤を用いるなどして卵子をより多く採取しやすくしていきます。卵子が成熟したと判断したら採卵を行います。(体外受精の卵巣刺激を参照)
凍結保存が可能なのは成熟卵のみとされ、年齢によって妊娠率や受精率は変わってきます。ちなみに解凍した卵子の生存率は約70~90%で、それが受精し(顕微授精)、良好な受精卵で妊娠する確率(1個あたり)というのは、30歳以下で35%ほどですが、35~37歳では約25%、40歳以上では15%以下となります。このことから、凍結保存する卵子の数は少なくとも35歳未満の方では、20個程度、36~39歳の方でしたら、30~50個程度の未受精卵子が必要と報告されています。
費用について
なお卵子凍結にあたっては、保管期間の設定、保管に関わる費用、更新手続きなども必要になるほか、卵子を融解して受精する際の顕微授精の費用などもかかることになります。
2022年4月に不妊治療の一部が保険適用となりましたが、この卵子凍結に関しては適用されておりませんので自費診療となります。また現時点では凍結卵子を使用しての顕微授精・胚移植にかかる費用も自費診療となっております。